綴じ込みページ 猫-113

  吉行淳之介は、「壷の中にある灰は、焼いた犬の骨と肉ではなくて、人間のものとしかおもえなかったからだ。」と書いている。ベンソンという名の飼い犬の骨である。


 歯科衛生士の百崎さんは、飼猫がなくなって、火葬して灰にしたが、骨壷はまだ箪笥の上に置いてある、といった。散骨を考えている、といったかもしれない。
 

 そこで、ぼくは、自分の場合はどうしたらよいかを考えた。自分の場合というのは、ぼくが死んだら、ということではない。うちのミーヤがなくなったときの話だ。
 ぼくは、犬や猫を火葬してくれるところがあるなんておもってもみなかったから、そういう火葬場があるというのは朗報である。ぜひ、ミーヤは、そういうところで火葬してもらおう。
 そこで、いざというときあわてないように、早速、調べてみた。そして、適当な火葬場をひとつ、見つけた。火葬してくれるだけでなく、希望すれば粉骨処理までしてもらえるそうである。


 粉骨にしてもらうと、ぼくの計画はぐっと順調になる。計画というのはほかでもない、ミーヤをぼくといっしょの墓に入れることである。
 ぼくの入る墓は、所沢にある。すでに、カミサンとカミサンの両親が納まっている。墓石のカミサンの名前のとなりに、ぼくの名前も彫ってあり、いつ入ってもいいようになっている。
 一族のだれが入ってもいいように、墓石には「倶会一処」と彫った。みんなここに集おうよ、というような意味である。しかし、いくらなんでも、猫までは無理だろう。
 実際に、猫も受け入れている一族の人たちの墓がどこかにあるそうだが、人間の名前と並んでタマとか彫ってあるのだろうか。それこそ、最高に自由な精神の持主たちじゃないか。
(つづく)