大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P90

 木の揺れが魚に移れり半夏生


 静岡県柿田川湧水に、長谷川櫂氏、千葉皓史氏、私の三人で吟行をした折の作。
 クレソンや水草が群生する柿田川は、澄んでいて小魚たちの動きがひと目見てよくわかった。水辺の草木が揺れるとそれが合図のように小魚たちは揺らぎつつ泳ぎだした。命から命へと繋がっていく清涼にして力感あふれる光景をいつまでもこのままずっと眺めていたいと思った。三人で吟行をした日から二十一年が過ぎた。幻影のような七月の思い出である。 (『雲の塔』)