大木あまり「句集 山の夢」『かき氷』

 かき氷        一九七二年〜一九七五年


父よ母よゆすら実赤し和解欲る
陽気さが母を支へて木槿咲く
赤のまんま働かぬ日は天使貌
黄葉を浴びぬ飛びたき石蛙
枯葉飛行風はその日の演出家
命のごと拾ひぬ母の木の葉髪
花として散らすポプコーン鴨を呼ぶ
双子座に恋くると出て風花す
父病めば空に薄氷あるごとし
えんえんと羅漢の会議春の雲
花すみれひと日悪女に明日善女
照りかへす若葉濃淡甘えまじ
鳩内気すずめ陽気に梅雨の家
まだ覚めぬ睡蓮に風母に風
青鬼灯父一代の詩人業
かき氷さくさく減らし同世代
くすり溜め薬大尽月光裡
早稲の金ねかせ民話の一部落
大姉も小姉も細身十月野
河つ子の明日はなにいろ鰯雲
装ひて月に嫁ぐや影法師
稲妻のひらめきわれに冬田道
夕焼もわが血となさむ冬泉
雪待つは父待つおもひ母の老ゆ
マフラーに風の矛先面接日
父母くれし黒髪乱す桜東風
花こぶし逢はねば忘る合言葉
風の町すみれ嗅ぐにも父似の鼻
かなしみも余裕の一つ葱坊主
揚花火華麗に降らせ父知らず
黄金虫忘れやすきは母の武器
爽やかに母娘のふやす旅の荷よ
角大師貼りてたのしや露の家
星屑の冷めたさに似て菊膾
一の酉もまれて厄を貰ふまじ
描かぬ日は絵巻のごとく毛糸編む
遠き灯は兎眼雪の降りに降る
福の座は母ゐるところ初箒
人日や雪華のごとき病持ち
追儺豆無頼に食べて敵手待つ
雪踏んで光源氏の猫帰る
手まめ口まめ女系家族に花こぶし
雉子鳩の説法と聞く花あかり
花冷えや職より多き婚話
青時雨こころ曇れば歩きけり
師の文字は地を駆くるかに青山河
絵の売れて星美しや黄金虫
風鈴やねじれ絵具の出番待ち
片付かぬことも孝なり紅蜀葵
昼は風夜は月の座型をとる
田の神のあかき巫女なる曼珠沙華
この秋や病も組みおく予定表
人に和すことの淋しさ花八ッ手