大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P190

 蹄鉄の釘目の見ゆる馬を洗ふ


 三歳のとき、栃木県安蘇郡田沼町疎開。八歳まで過ごした。夏休みになると友達と川で目高捕りや河原で蛇の卵を探したりして遊んだ。遊び疲れて帰る頃、青年が馬を洗っているのを偶然見た。川の水をざぶりとかけられ全身をごしごし洗われても馬はおとなしく濡れた尾っぽを振っていた。青年が馬の前足を上げたとき、蹄鉄の釘目が夕日に光った。記憶の中の馬の句である。 (『星涼』)