大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P188

蝶よりもしづかに針を使ひをり


 春の昼、庭に白い蝶が飛んでいる。消えたと思うとまた現れる。今日は猫の蒲団のカバーを縫う予定だ。白い布に針をすっと入れる。蝶に虫ピンを刺したような感触。この感触を忘れるべく前に作った〈野の蝶の触れゆくものに我も触る〉の句の情景を思い浮かべる。すると部屋に蝶の気配が。塗った糸をぐっと引きしぼり、蝶よりも静かに、静かに針を使う。白い布の上を針は旅をする。そして、カバーが出来上がると針の旅は終る。 (『星涼』)