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 小西甚一「国文法ちかみち」のオマケ「(二)歴史的かなづかい」のつづき。


ところが、十七世紀のあとの方、つまり元禄時代に、契沖がいろいろ研究した結果、定家仮名づかいでは多くの点で平安時代中期より前の用例と合わないことを確かめ、和字正濫抄(わじしょうらんしょう)という有名な本を著わして、新しく古典仮名づかいを決めた。この研究成果は、実にりっぱなものであって、楫取魚彦(かとりなひこ)や本居宣長によってさらに補われた点はすこしあるけれども、大すじとしては明治以後もそっくり承けつがれ、明治二十一年までは公式の正しい仮名づかいとしておこなわれていた。いまでも、古典語にはこの仮名づかいが用いられるし、現代語においても、公用のもの以外は用いてもさしつかえない。それは、憲法に保証された「表現の自由」である。
 歴史的仮名づかいとは、定家仮名づかいと契沖仮名づかいとをひっくるめたものだと理解するのが、理論的には正しい。この意味での歴史的仮名づかいに見られる共通の特色は、仮名づかいの「正しさ」を判定する基準として、古典語すなわち平安時代中期のことばで書かれたものを考えている点である。「歴史的仮名づかいとは、旧仮名づかい、つまりむかしの仮名づかいなんだ」と大ざっぱに考えないで、どこまでも古典語こそ「ことばの基準なのだ」という思想から理解していただきたい。それは、文法が古典語にもとづいて組み立てられたのと同じ考えに由来しているのである。


 ふーん、そんなに正しい仮名づかいなら、どうして「昭和二十一年まで」で公用からはずれてしまったのだろう。これは、どうしても「(四)現代仮名づかい」を読んでみる必要がありそうだ。それにしても、ぼくは、国文科にすすまなくて正解だったかもしれない。
(つづく)