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 一九六七年に、四人の文学者が連名で共同声明を発表した。「文化大革命に関し、学問芸術の自立性を擁護するアピール」というのがそれである。四人とは、川端康成三島由紀夫安部公房、そして石川淳だった。
 

 ぼくは、まだ、石川淳を読んでいなかったから、この組合わせがなんとなく不揃いのようにおもえた。そこで、早速、東横線新丸子駅のそばの甘露書房という古本屋で、筑摩書房版「新選日本文学全集」第二巻「石川淳集」(一九五九年発行)を購い、読んでみた。当時、新品同様とはいえ、古本で二千円は高かった。しかし、前から気になることはなっていたのだ。
 一読、驚いた。両手をついて、へへー、まいりました。家来になるから許してください、といいたい気分だった。そのびっくりの二日酔いがいつまでも醒めず、手紙を出した友人から、「おまえ、おかしいことになってるぞ、文章が」と注意された。石川淳は、感染するのである。
 

 この石川淳は、原稿の最初のページの欄外に、かならず「正字、正仮名のこと」と注意書きを添えた。「新字新仮名お断り」と書くこともあった。
(つづく)