2014-01-01から1年間の記事一覧
白石正人句集「わかめご飯の素」(「春 spring」)を読んでわかることは、いて丁さんとぼくの感性が違っていることだ。しかし、まるっきり違っているわけでもなくて、かえって始末に困る、とおもった。 「夏 summer」 パセリパセリ刻んで刻んで五月来る 挨拶…
白石正人句集「わかめご飯の素」(「春 Spring」)のつづき。 アネモネや人はひとしく生きられず 春の桟橋誰も端まで行きたがる 江の島の木の教会や浜防風 大人の砂利踏む音やうららけし 猫を撫で薇の頭に触れにけり 鳥鳴いて花待つ人となりにけり ならみち…
句会のお仲間のいて丁さんが、はじめての句集を上梓された。もっとも、ご本人には第一句集というお考えはないようだ。俳人としての世界が広がって、名刺代わりの句集が必要になったから、とおっしゃった。浅葱色というのだろうか、黄緑色の表紙のきれいな冊…
爪を切られたのが気に入らない、とミーヤはいいはしなかった。しかし、あきらかに腹を立てた様子で、朝、ぼくの胸にのっかってこなくなった。 しばらくぶりで、シャツ職人の市川さんに会った。市川さんは元気で、会わないうちに白内障の手術をすませていた。…
ミーヤは、毎朝、ぼくが起きるころになると、胸かお腹にのってくる。ある日、目をひらいたら、胸にすわったミーヤが、じっと上からぼくの顔をのぞきこんでいたことがある。猫は、ああいうとき、なにを考えているのだろう。 先日、句会のお仲間の尚さんが、気…
ミーヤの首輪がよれよれになったので、買い替えることにした。こんどは、麻の首輪にした。 俳句に「白服」という夏の季題がある。山本健吉編「最新俳句歳時記(夏)」(文春文庫)には、「真夏は、麻・セル地などの白服を着ることが多い。白装。」とある。 …
電車とバスを乗り継いで、カミサンの墓参りに行ってきた。 炎天下、墓石を洗い、花を生けた。夏の日向では、花は何日も保たないないだろう。 洗ったばかりの石の表面は、すぐに乾いてしまう。石段の隅にちびたローソクを立てて、マッチで火をつけるが、いざ…
先日、日の出桟橋から浅草まで、水上バスというものに乗ってみた。 つぎの句会の兼題のひとつに「遊船」というのが出たので、試しに乗ってみようということになったのである。 結果として、水上バスでの一時間ほどの旅は、おもっていた以上に楽しかった。東…
夏目漱石の全集を購入した。岩波書店刊、新書判「漱石全集」全三十五巻、古本で一万二千円。一冊三百四十三円也である。いま、文庫本だってこんなに安くない。 じつは、十年近く前に、同じものを一度購入したことがある。これは、別のところに書いたことがあ…
句集「山の夢」には、大木あまり自身の「あとがき」がある。せっかくだから、若き日のあまり先生が、どんなおもいで俳句に対峙していたのかを見ておこう。 句集のための整理を始めて少しは輝きのあるものをと願っておりましたが、饒舌な句が多く、まだまだ、…
第四章「雪の山 一九七八年ー一九七九年」(大木あまり句集「山の夢」所収)のつづき。 秋の天怒りはじめの喰ひはじめ 花冷えに似てどぶろくの山の国 硬く巻く長子の傘や花八ツ手 鴨わたり来て山の幅人の幅 大仏の海に雨消え大根引き 菊盗ると鎌倉寒の来りけ…
第四章「雪の山 一九七八年ー一九七九年」(大木あまり句集「山の夢」所収)。 霰打つ男女の世より逃るべし 貧乏揺すり日向一つの寒雀 鴨は雫雑木に移す涅槃かな 沼底の濁りは知らず恋雀 阿呆一生雪山を見て杉を見て 父の骨土に根づくか春の雪 海と化すには…
第三章「盆用意 一九七七年」(大木あまり句集「山の夢」所収)のつづき。 雲を飼ふ山々なれば明易し 新じやがをほろほろむけば法事来る 米喰はぬ日は怒りがち雲の峰 雨の中日が射し山の盆用意 げんのしようこ髢干しして山の国 註:かもじ 祭三日汗を出しき…
第三章は、「盆用意 一九七七年」(大木あまり句集「山の夢」所収)。 寒卵は尼の静けさ岬暮る 水仙や雀するりと墓日和 枯葦の影も他郷や酒盗買ふ しやちほこの目の支へあふ雪催 足柄や赤子気配の冬木の芽 多喜二忌や地に嫋嫋と濡れわかめ 涅槃西風けふ生か…
第二章「願の道 一九七六年」(大木あまり句集「山の夢」所収)のつづき。 蠅取紙蠅を離さず村暮るる 風の座を男に譲る昼の蝉 サングラスの軽さ重さや独身者 註:ひとりもの 汗ふくやモナリザ微笑の八時間 註:えみ 木槿咲く少年工の隠れ喰ひ しぎ焼に爺婆の…
第二章は、「願の道 一九七六年」(大木あまり句集「山の夢」所収)である。 眠たさや寒禽和紙の微音して 二月雪飛火のごとく仕事来る 鴨の沼めぐりて母の遍路貌 春待つやドガの踊り子ジュース立て 花社氏子雀のはじけ飛ぶ 毛の国や春暁顔のちぢむなり 春寒…
「かき氷 一九七二年ー一九七五年」(大木あまり句集「山の夢」所収)のつづき。 マフラーに風の矛先面接日 父母くれし黒髪乱す桜東風 花こぶし逢はねば忘る合言葉 風の町すみれ嗅ぐにも父似の鼻 かなしみも余裕の一つ葱坊主 揚花火華麗に降らせ父知らず 黄…
「かき氷 一九七二年ー一九七五年」(大木あまり句集「山の夢」所収) 父よ母よゆすら実赤し和解欲る 陽気さが母を支へて木槿咲く 赤のまんま働かぬ日は天使貌 黄葉を浴びぬ飛びたき石蛙 枯葉飛行風はその日の演出家 命のごと拾ひぬ母の木の葉髪 花として散…
大木あまり先生の第一句集「山の夢」は、「海光のシリーズ 新鋭作家集ー1」として一九八〇年六月一日に一日書房から刊行された。句は、四章に分けられ、合計233句収録されている。 第一章の表題は「かき氷」。1972年から1975年までの53句が並んでいる。 同様…
ボッコちゃんは、化学者である。優秀な大学院で学んで、論文が認められ、研究所に勤めるようになった。 ボッコちゃんの着想は、最初、みんなに相手にされなかった。しかし、こつこつと研究するうちに、着想が実証できそうになると、関心を持つ研究者が現れた…
四月一日は、エイプリルフール。 文春文庫の山本健吉篇「最新俳句歳時記(春)」には、「四月一日をエープリル=フールズ=デー、またはオール=フールズ=デーと言って、ひとをかついだり驚かしたりすることが許される風習が西洋にある。エープリル=フール・四…
バーントパインとバーガンディにもヴィンテージスチールを付けてもらった。そして、それぞれに合う靴クリームの色を相談した。 某エドワードグリーン販売店に、黒の靴クリームをのせたバーガンディの靴が置いてあるそうで、それがたいそういい色合いだという…
日曜ごとに日本橋に行く。車がないので、靴をいっぺんに運べないからである。靴というのは、あんがい重いものである。それに、履いているとわからないが、これが持って歩くとなるとけっこうかさばる。ジョッパーを履いて歩いているが、そういえばブーツを持…
有金君も猫を飼っている。スコッティッシュホールドという由緒正しい種類の猫だ。ただ、残念なことに、この猫の特徴であるところの、耳が折れ曲がっていない。普通にピンと立っているのだ。それで、売れ残ってしまい、割安で購入できたという。 奥様の加減が…
シュナイダーブーツのジョッパーのつま先(の裏底)に、補強用のラバーを付けてもらった。新品のときなら、ヴィンテージスチールという金具のチップがよいのだが、何回か履いてしまったあとでは、ゴムのラバーで十分だといわれた。専門家の言葉に弱い性格で…
ミーヤと暮らして三年たった(ということは、カミサンがいなくなって四年もたったということか)。 ミーヤがうちにきて、二十日目に東北で地震が起きた。 地震に関しては、他人事ではない。そろそろ東京にも直下型の地震が起きても不思議でない頃合いである…
世のなかには、一足三十五万円の靴がある。もちろん、カスタムオーダーの靴である。高すぎて冗談じゃない、とおもわれるかもしれない。しかし、冗談ではない。しかも、同じ型の靴を一回に十足以上注文しないとこしらえてくれないのである(ずっと昔、オーダ…
最後の二足は、バーガンディというフランス産のワインからきたらしい赤茶色と、バーントパイン(焼けた松)という、なんというか、グレーっぽい茶系のような色合の靴だった。二足ひとからげで、セットで売り出されたのだから、色が気に入らなくても文句はい…
「長靴をはいた猫」が頭に浮かんだのにはわけがある。ちょうど、オークションで、ブーツに入札したばかりのところだったからである。ぼくは、ほぼ半額で出品されたそのブーツが、もう何カ月も落札されぬまま繰り返し出品されているのを知っていた。しかし、…
靴を落札させていただいた出品者の方々からは、それぞれきちんとしたご挨拶をいただいた。 オークションの取引は、おおむね一過性のものだから、商品がちゃんと届いたり、早急に入金されたりすることに対しては感謝の言葉を述べるが、なかなか普通の会話にま…