綴じ込みページ 猫-128

 最後の二足は、バーガンディというフランス産のワインからきたらしい赤茶色と、バーントパイン(焼けた松)という、なんというか、グレーっぽい茶系のような色合の靴だった。二足ひとからげで、セットで売り出されたのだから、色が気に入らなくても文句はいえない。しかも、辞書で調べると、ややこしいことに、イギリスには、日本や中国の赤松や黒松のような、いわゆる松の木は自生していないということで、むしろスコットランドの樅の木をさすようだ。それならなんでパインなんて付けたんだろう。樅の木を焼いた色がバーントパインか。
 

 この二足のラストは、どちらもE606で、サイズと形は申し分なかった。しかし、フォーマルシューズは黒しか履かないぼくには、縁のなさそうなにやけた靴に見えた。それなら、なぜ購入したのか。二足分の定価の、三分の一の値段だったからである。しかも、(評判のよい)旧工場で製造された靴で、新品ではこの値段では二度と手に入らないとおもえたからだ。
 

 こうなったら、にやけるしか手はなさそうだが、こんなときうってつけの綿貫君はもういないし(綿貫君はロールスロイスと葉巻がよく似合った)、きちんとレクチャーしてもらわないことには、どうやってにやけていいのかわからない。困った。