綴じ込みページ 猫-131

 シュナイダーブーツのジョッパーのつま先(の裏底)に、補強用のラバーを付けてもらった。新品のときなら、ヴィンテージスチールという金具のチップがよいのだが、何回か履いてしまったあとでは、ゴムのラバーで十分だといわれた。専門家の言葉に弱い性格である。
 

 修理屋さんは、日本橋高島屋の近くだったので、久しぶりに有金君に電話してみた。ちょうど昼めしの時間帯で、修理が上がるのが1時間後だったから、うまくすればいっしょにお昼が食べられるとおもったのである。
 しかし、有金君は、携帯にでなかった。接客が忙しくて、とても電話にでるどころではないのかもしれない。仕方なく、丸善に入り、おしゃれに関する書籍を片っ端から手にとった。いずれもたいそう立派な本であるが、内容は水で割りすぎたウイスキーのような代物だった(口に含んでも、いっこうにキックしない)。
 

 最近の販売は、すぐに声をかけないで、すこし泳がしておいて、頃合いをみて「いかがですか」と近づくのが主流だときいていたが、なにかを見ようと立ち止まるたびに声をかけられた。ぼくは、声をかけられると、その人を見ずに、ぺこりと会釈だけして通りすぎるタイプである(お声がけしないのが、お声がけのコツなんですけど)。
 

 靴を受取って、もう一度、有金君の携帯を呼んでみた。しばらくして、留守番電話に替わったので、名前だけいって切ると、あきらめて白金台のチョコレート専門店に向った。もうじきバレンタインデーである。今年は、サマーバレンタインなんてのをひろめようと画策するメーカーもあるそうで、困ったものである。


 帰宅して、すぐに有金君から携帯に電話が入った。きょうの土曜は、めずらしく休みになったんです、といった。エドワード・グリーンの話になると、ぼくも持ってます、といって、靴のサイズをきいてきた。
「残念だなあ。ぼくより足、小さければ、ぼくの靴あげたのに」
 

 有金君は、エドワード・グリーンが移動するとき、在庫の靴を安く購入したそうである。しかし、痛くて履けないのだそうだ。23,5センチの有金君にきつい靴を履ける人というのも、なかなかいないのではあるまいか。昔、ぼくがポール・スチュアートで買った、木型が小さくて合わない靴を進呈したのは、ほかでもない有金君だった。が、本人は、すっかり忘れているようだった。
(つづく)