綴じ込みページ 猫-132

 有金君も猫を飼っている。スコッティッシュホールドという由緒正しい種類の猫だ。ただ、残念なことに、この猫の特徴であるところの、耳が折れ曲がっていない。普通にピンと立っているのだ。それで、売れ残ってしまい、割安で購入できたという。


 奥様の加減がわるくなったとき、気がまぎれるようにと飼いはじめたのだが、じきに奥様がなくなられた。有金君の猫は、十いくつかになるそうだ。
「なくなって、十年経ちますからね。でも、猫を飼ってくれててよかったとおもいますよ。こんどはぼくの気がまぎれて」


 このお嬢さんは、触られることがきらいで、ぜんぜん撫でさせてくれないという。そのくせ、電話をかけると、急に焼きもちをやいて、やめさせようとスリスリしてくるのだそうだ。電話をやめても、撫でさせてくれるわけではないのに。


 マンションの一室でいっしょに暮らしながら、膝にくることもなく、触らせもしない猫のことを想像してみる。食餌の世話やトイレの始末だけさせて、人間と距離をおいて生活する猫ねえ。きっと、飼い主を執事かなにかのようにおもっているのだろう。