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第三章「盆用意 一九七七年」(大木あまり句集「山の夢」所収)のつづき。
雲を飼ふ山々なれば明易し
新じやがをほろほろむけば法事来る
米喰はぬ日は怒りがち雲の峰
雨の中日が射し山の盆用意
げんのしようこ髢干しして山の国 註:かもじ
祭三日汗を出しきる他郷かな
雨搏つて佛間より見る秋の川
川あれば秋風のゆき佛ゆき
秋風をいちはやく知る法衣かな
力出すこと蝉のこゑ青水輪
塩絶ちや雲の平らな野分川
鬼ごろし飲めば彼岸の月止まる ※飛騨に鬼ごろしといふ酒あり
葛咲くや検見のお婆は睫毛なし
月の僧双手の影を一つにす
山棲の声川に出ず猫じやらし
少女の砂深く踏む十三夜
穂芒や丸く眠れば山の夢
別々に秋風を見て墓定む
むかご引き夜は雨と決む辰雄の地
柿喰うて齢と顔をあはずをり
とろろ芋のんびり生きてかゆしかゆし
山姥が子を生む日和蓮の実飛ぶ
黄落やがまんがまんの山坐る
紅葉より枯れの明るしかつぱ塚
岬枯れ青を恥ぢらふ猫じやらし
布団より鳥の羽根出て冬ぬくし
鯉の泡母に流れてしぐれけり
尻に日の射して多感な冬の鵙
鳶低く雪なかに墓求めけり
冬紫蘇のぎざぎざ淋し山の国
煮凝溶け魚の涙の流れけり
(「盆用意」終)