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 第三章は、「盆用意 一九七七年」(大木あまり句集「山の夢」所収)。


    寒卵は尼の静けさ岬暮る
    水仙や雀するりと墓日和
    枯葦の影も他郷や酒盗買ふ
    しやちほこの目の支へあふ雪催
    足柄や赤子気配の冬木の芽
    多喜二忌や地に嫋嫋と濡れわかめ
    涅槃西風けふ生かされて蛇眠し
    指紋濃し一つは淡し涅槃西風
    朧なり夜のまな板の嘘乾き
    孔子孟子堂に悩めり桃の花
    両眼なき達磨のゆとり桃の花
    悪女鼻山に突き出しかげろへり
    海国や叩かれ風船河豚ごころ
    菊を食べ口の闇消す春嵐
    コップに映る顎のさみしさ楢芽吹く
    血を採られ優しく居りぬ雨の蟇 
    夏近し身につくものに杉の闇
    冷奴音なく食べて忌の明くる
    杉の光り佛間に通し夏立てり
    のらのらと生きて立夏のうすき汗
    花桐の暮れてあらはに山の瘤
    山吹の黄の隙間なし甲斐の国
    山中に番地の残り竹の秋
    山の蛾の飛ばねば怖し獨鈷山  註:とつこ
    父の日の雫ためをり杉檜
    まくなぎの湿りを耳に神の道
    太宰忌の息とめて受く蘆の風
    馬鹿力出して忌明けの西瓜割る


(つづく)