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第二章「願の道 一九七六年」(大木あまり句集「山の夢」所収)のつづき。
蠅取紙蠅を離さず村暮るる
風の座を男に譲る昼の蝉
サングラスの軽さ重さや独身者 註:ひとりもの
汗ふくやモナリザ微笑の八時間 註:えみ
木槿咲く少年工の隠れ喰ひ
しぎ焼に爺婆の箸出合ひけり
かなかなのある日は帰る道変へて
パチンコ店滝の音なす終戦日
マネキンの言葉知らねば涼しけれ
青芭蕉ばさばさ多摩の定期便
桟橋まで行きて旅とす蚊喰鳥
晩菊や母を離れて母を見る
凶の日の大股に行く花野かな
絵馬兎金眼をきかす月の寺
出羽を去る松の半身涼しけれ
数珠玉の風にしやりしやり戦知らず
藷金時の湯気の強さや町の中 註:いもきんとき
鼻あれば秋の暑さに謀らるる
忌へ一歩むかご曇りの小諸かな
虫の音に咳まぎれこむ渡来の村
折鶴のつらなり焼かる枯れの中
式服の絹たよりなき秋つばめ
秋冷の水子を覚ます魔除鈴
草の穂や長寿卵の地獄ゆで
枯れいろのなき淋しさや菊の武者
人の黙こはし岬の虎落笛
鐘を撞き清姫ごころ冬欅
干し魚の眼のおぼろなり冬岬
(「願の道」終)