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 第二章は、「願の道 一九七六年」(大木あまり句集「山の夢」所収)である。


    眠たさや寒禽和紙の微音して
    二月雪飛火のごとく仕事来る
    鴨の沼めぐりて母の遍路貌
    春待つやドガの踊り子ジュース立て
    花社氏子雀のはじけ飛ぶ
    毛の国や春暁顔のちぢむなり
    春寒し地蔵の見えぬ地蔵岳
    春霖の来て十三夜といふ櫛屋
    早春のさざなみ暗き日本橋
    焦げめより団子の乾く彼岸空
    白酒に酔ふ漱石ひげの上司なり
    啓蟄や小屋ごとゆれて踏切番
    蝦蛄売のふらり来る街稲妻す
    花えんじゆ羅漢の町に一仕事
    セルを着て魚の光りの雨後の町
    丸木舟に蠅の落ち着く郷土館
    仕事袋のひと日の重さ桐咲けり
    栗の花置くここちして土用灸
    街やっと暮れてやさしき虻の渦
    まひまひやぼあんと暮るる甘露の井
    麦の髭揺らす雀や誕生日
    梅雨寒や豆とらへたる長寿箸
    鬼百合の向きの気になる墓参道
    炎天や念珠にうつる願の道
    暦のやうにいつも富士見る青芒
    冷えて鳴る鉄風鈴ややみ市場
    かき氷の底の甘さや城下町
    小荷物を遠く旅させ星祭


(つづく)