綴じ込みページ 猫-139

「かき氷 一九七二年ー一九七五年」(大木あまり句集「山の夢」所収)のつづき。


    マフラーに風の矛先面接日
    父母くれし黒髪乱す桜東風
    花こぶし逢はねば忘る合言葉
    風の町すみれ嗅ぐにも父似の鼻
    かなしみも余裕の一つ葱坊主
    揚花火華麗に降らせ父知らず
    黄金虫忘れやすきは母の武器
    爽やかに母娘のふやす旅の荷よ
    角大師貼りてたのしや露の家
    星屑の冷めたさに似て菊膾
    一の酉もまれて厄を貰ふまじ
    描かぬ日は絵巻のごとく毛糸編む
    遠き灯は兎眼雪の降りに降る
    福の座は母ゐるところ初箒
    人日や雪華のごとき病持ち
    追儺豆無頼に食べて敵手待つ
    雪踏んで光源氏の猫帰る
    雉子鳩の説法と聞く花あかり
    花冷えや職より多き婚話
    青時雨こころ曇れば歩きけり
    師の文字は地を駆くるかに青山河
    絵の売れて星美しや黄金虫
    風鈴やねじれ絵具の出番待ち
    片付かぬことも孝なり紅蜀葵
    昼は風夜は月の座型をとる
    田の神のあかき巫女なる曼珠沙華
    この秋や病も組みおく予定表
    人に和すことの淋しさ花八ツ手 


(「かき氷」終)