綴じ込みページ 猫-151

 ミーヤは、毎朝、ぼくが起きるころになると、胸かお腹にのってくる。ある日、目をひらいたら、胸にすわったミーヤが、じっと上からぼくの顔をのぞきこんでいたことがある。猫は、ああいうとき、なにを考えているのだろう。


 先日、句会のお仲間の尚さんが、気がついたら愛猫の爪が伸びて肉球に刺さっていたので、あわてて病院に連れていった、という話をしていた。うちのミーヤも、爪を切らせないから、身につまされる話である。


 そこで、ミーヤがうとうとしているのを見計らって、爪を切ろうと思い立った。そっと前足の親指の肉球を押すと、カギ型に曲がった長い爪が現れた。ミーヤは目ざといから、すぐに頭をあげた。しかし、目をつむったまま、なんだかボーッとしている。そこにつけ込んで、鋏で一気に爪を切った。


 猫の爪には、付け根に近いところに血管が走っている。爪を切るとき、あまり深爪すると、この血管まで切ってしまうそうである。一枚の繪の伊藤さんは、血管まで切ったことがあるそうで、「ピューって血が飛んだのよ」と説明してくれた。「でもね、猫ってすぐ忘れるから、だいじょうぶよ」


 一瞬、血管まで切ったか、とおもったが、だいじょうぶだった。反対側の親指の爪も切っておこう、と手(前足)をとったら、ようやくわれに返ったようで、とつぜん、腕をふりほどこうとした。しっかり握ったぼくの手から、細い腕をよじって逃れようとする。せっかく切りかかった爪だから、もう一本だけでも切っておきたい。腕をひねって、折れるんじゃないかとおもわせるほど抵抗するミーヤの肉球を押した。爪が出た。あわてて切った。とたんに、後ろ足でぼくのお腹を強く蹴って、ミーヤはぼくの手から脱出した。
(つづく)