綴じ込みページ 猫-154
白石正人句集「わかめご飯の素」(「春 Spring」)のつづき。
アネモネや人はひとしく生きられず
春の桟橋誰も端まで行きたがる
江の島の木の教会や浜防風
大人の砂利踏む音やうららけし
猫を撫で薇の頭に触れにけり
鳥鳴いて花待つ人となりにけり
ならみちの伊賀までつづく櫻かな
去りがたく踵を返す山桜
やがて海原舟形の花筏
泣き上戸になりたき夜の牡丹雪
パラフィンに本くるまれて春の風邪
車椅子ゆつくり押して豆の花
草の名を即答出来てあたたかし
槻芽吹く上野の山を急ぎけり
約束はいつか果たせる揚雲雀
目薬の目からこぼれて百千鳥
ワイン村ランチボックス百千鳥
鹿尾菜刈みぎはに残す猫車
噺家のいつも角刈り浅蜊飯
春なれやわかめご飯の素をまぜ
倦怠やアスパラガスを茹でこぼす
読経の遠く聞こゆる昭和の日
糸遊や芽摘み鋏の置かれある
風吹いて春惜しむ日となりにけり
(つづく)