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 白石正人句集「わかめご飯の素」(「春 Spring」)のつづき。



    アネモネや人はひとしく生きられず
    春の桟橋誰も端まで行きたがる
    江の島の木の教会や浜防風
    大人の砂利踏む音やうららけし
    猫を撫で薇の頭に触れにけり
    鳥鳴いて花待つ人となりにけり
    ならみちの伊賀までつづく櫻かな
    去りがたく踵を返す山桜
    やがて海原舟形の花筏
    泣き上戸になりたき夜の牡丹雪
    パラフィンに本くるまれて春の風邪
    車椅子ゆつくり押して豆の花
    草の名を即答出来てあたたかし
    槻芽吹く上野の山を急ぎけり
    約束はいつか果たせる揚雲雀
    目薬の目からこぼれて百千鳥
    ワイン村ランチボックス百千鳥
    鹿尾菜刈みぎはに残す猫車
    噺家のいつも角刈り浅蜊
    春なれやわかめご飯の素をまぜ
    倦怠やアスパラガスを茹でこぼす
    読経の遠く聞こゆる昭和の日
    糸遊や芽摘み鋏の置かれある
    風吹いて春惜しむ日となりにけり


(つづく)