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 第四章「雪の山 一九七八年ー一九七九年」(大木あまり句集「山の夢」所収)のつづき。


    秋の天怒りはじめの喰ひはじめ
    花冷えに似てどぶろくの山の国
    硬く巻く長子の傘や花八ツ手
    鴨わたり来て山の幅人の幅
    大仏の海に雨消え大根引き
    菊盗ると鎌倉寒の来りけり
    沙羅双樹ゆらすしぐれは政子かな
    潮引くと朴の匂ひの雪催
    赤旗の鷹の羽音の十二月
    見通しのよき川に出て劉生忌
    悪妻の咳の小さき月夜かな
    冬の山切株ころげ懺悔台
    ピカソの馬寒馬となれり大都会
    たどりつく流氷想ひ梅想ふ
    雪の影鋭し川の合流す
    田の氷割る大しぶき周氏亡し
    雪の山朴ひらく日は嵐と決む
    激り出し骨翳りする雪解川
    富士の影起こせし田面実朝忌
    かげろふの弱きを助くごとくなり
    ビーナスの影は闘士よ鳥帰る
    栗鼠の尾の土牢を掃き春遅し
    杉皮の抹香臭し雪解川
    猫埋む杉山は春竹は秋
    お位牌のきんきんきらも春の位置
    見えすぎて鷺の飛ばずや大霞
    鳥帰り汁甘くなる鬼うどん
    丘青むやたら殺してギリシヤ劇
    雉子鳴いてシラノの文を読むごとし


(「雪の山」終)