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 白石正人句集「わかめご飯の素」(「冬 winter」)のつづき。  


    こころみに足袋履いてみる男かな
    向ひから外つ国人の礼者かな
    寝ねがてに年賀はがきを読みかへす
    牛日の乗り放題の切符かな  (牛日:一月五日)
    どんど焚く縄は縄なる形して
    かにかくにをろがむ人や寒の梅
    不器用な関係である枯葛
    譲られし席の温さや冬の通夜
    枯枝に蜜柑刺し置く冬籠
    寒の馬銜をつければ靡き顔  (銜:はみ、靡き顔:なびきがお)
    人類は焚火禁止の時代かな
    百年に一度息継ぎ鯨飛ぶ
    竹寺の鐘のやさしき冬桜
    探梅や中央線に乗換へる
    雪下駄に履替へてゆく朝湯かな
    頭を濡らす水飲み鳥や日脚伸ぶ  
    人生はいつもこれから炬燵猫
    節分のハッピィアワーの酒場かな
    綿虫に明日のことは分かるまい 


 牛日に関しては、引用でお茶を濁す。いて丁さんの該博癖に苦言を呈したら、夫子は怒るだろうか。


「古代中国では、一月一日は鶏日、二日は狗日、三日は羊日、四日は猪日、五日は牛日、六日は馬日、七日は人日、八日は穀日として占い、その日は殺生をしないようにした。人日には人を処罰せず、また七種菜羹(七種の菜のあつもの)を食べて無病息災を祈った」。(出典忘却)
 

 水飲み鳥(drinking bird)は、頭を上下しながらコップの水を飲む動きをする玩具のこと。時計店のショウウインドウの隅に置かれているのを、むかしはよく見かけたものである。
 

 小冊子「わかめご飯の素」は、私家版の見本句集と位置づけたいご本人の意に反して、いて丁さんの第一句集として特筆されることになるだろう。