大木あまり詩画集「風を聴く木」『1-風を聴く木』

 風を聴く木


アポリネール
猫と理解しあえる
友達がいれば
幸福だといった。


しかし
幸福の似合わぬ
女は、愛を知ると
いつも逃げる。
逃亡者のように。
逃げて 逃げて
疲れ果てて 振り向くと
樹海だった。


女には 吹く風が
水や炎の
音に聴こえた。
やっと帰ってくることが
できたと思った。
いつも帰るところを
探していたから。


身体の中を
風が青い焔となり
漣となり
しみてゆく。


もう女の傷口に
 愛が
 孤独が
 世界が
流れこむことはなかった。
女は風ばかり
聴いていた。
そして
一本の木となった。