大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P54

 秘めごとや鬼雲となる夕焼雲


 秘め事というほどのことでもないが、初心者の頃から山川蝉夫のファンだった。当時の日記を読むと、〈きみ嫁けり遠き一つの訃に似たり〉という彼の一句が書きとめてあり、その脇に小さな文字で「私がいるからだいじょうぶ」とだけ書いてある。ファン心理もいいとこだが、蝉夫の作品を読んで大いに刺激を受けていたことは確かだ。掲句の「鬼雲」は蝉夫のこと。〈友よ我は片腕すでに鬼となりぬ 蝉夫〉への相聞である。 (『火のいろに』)