大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P56

 ほうたるを双手に封じ京言葉


 俳人の中村堯子と蛍を見た夜のことが忘れられない。あの夜、堯子は両手で摑えた蛍を薄い和紙に包んで私に渡してくれた。和紙から透けて見える青白い光は神秘そのもの。冷ややかな光を放つ美珠のような蛍。蛍火の美しさを際立てているのは京都の深い闇。一千年有余、脈々と続く都の闇が蛍火をさらに妖しく演出しているのだ。しばらく夢心地でいると「俳句作らへんの?」堯子の声で私は現に返った。 (『火のいろに』)