大木あまり詩画集「風を聴く木」『3-老醜』

 老醜


二十歳のわたしは
悲しみを水栽培の
アネモネのように育てていた。


三十歳のわたしは
不自由さを虫のように
心の地下室に飼っていた。
歳月はいろいろなものを
飼いならす。
わたし自身まで。


四十歳をすぎたわたしは
小さな怪物を飼っている。
この怪物を飼ってから
生きることが自由になった。
桜が満開になったので
見に行こうと怪物を誘ったら
否! と答える。       (註:ノン)
太陽の下でわたしがたいそう
醜く見えるからと
忠告までしてくれる。
それなのに夜になると
怪物は桜を見に行こうと
しきりに誘う。
常夜燈に浮き出た
数百本の桜は
凪の白い海。


横たわる 死のようだ。
そのうち
死も飼うことになるだろう。