銀座百点 号外81

「布団の国」の王様どころか、白く乾いた地面の上に投げ捨てられた死体のように、少年は自分を感じた。そして、白い布団のひろがりの上に横たわっている、骨格だけになっている自分の躯を見まわした。
 少年は、自分一人の力では、起き上がれなくなった。
(中略)
 そんなとき、あの友人が少年を見舞にきた。友人は、少年を見ると、おどろいた顔になった。
「布団の国は、たのしくないぞ」
 先手を打って、少年が言った。
「うん、そうだろう。ずいぶん痩せたな。見ちがえたよ」


 医師が部屋に入ってきた。
「さあ、君、立って歩く練習をするんだ」
(中略)
 少年は、大きくまるく突き出した膝の骨を眺めた。その部分だけが、強調されて眼に映ってくる。残りの部分は、真直な骨である。立ち上ろうとしても、力を籠める部分が失われているようにおもえた。
「以前は、どういう具合にして、立ち上っていたのか」
 と考えてみたが、思い出せない。
(中略)
「まだ、無理かな」
 医師は呟いて、部屋から出て行った。
「前は、高く跳べたのに。とても、高く跳べた」
 友人が慰める調子で言った。
 水平に懸け渡された細い横木に向って走ってゆく自分の姿勢を、少年は思い出した。走ってゆく、速く勢よく走ってゆく。風が、躯の両脇で鳴る。強く地面を、片方の蹠で蹴る。ふわりと躯が持ち上り、横木の上を越えてゆく。
(中略)
「君の家の犬が君をみたら吠えるかもしれないな。しかし、君はやはり君なんだ。元気を出さなくてはいけない」
 慰める調子だったが、なにか別のものが混じったようにおもえた。(中略)この友人は、自分を憎んでいたのかな、とおもった。それにしても、なぜ憎んでいたのだろう。自分の健康な肉体を憎んでいたのだろうか、と少年はおもった。
 そして、以前、その友人の上に馬乗りになり、ねじ伏せた顔を地面にこすりつけたことのあったのを、思い出した。