大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P22

 麦の髭揺らす雀や誕生日


 俳句を作りに麦畑へ行くと、一本の穂麦を揺らしている雀が目にとまった。嬉々として麦の穂と遊んでいる姿は微笑ましい。ときどき、こちらを見ては鳴いてくれる。その日は私の誕生日。なんだか雀に祝福されているようで心が和んだ。
「麦の髭」にしたのは、麦の穂に触れたとき、幼い私に頰摺りをしてくれたK先生のざらりとした髭の感触をふと思い出したからだ。父親のような先生だった。 (『山の夢』)