大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P18

 蝦蛄売のふらり来る街稲妻す


 まだ小さかった頃、母が「そろそろ蝦蛄売のおじさんが来るわよ」と言うと、かならずおじさんは現れた。
 魚籠をのぞくと、青灰色や薄みどりの蝦蛄が元気に飛び跳ねている。私なんか、たった十二年しか生きていないのにもう疲れ果てている。茹でられてしまうのに、蝦蛄は元気でいきいきしてえらいなあと感心していると、あたりがぴかっと光り稲妻がした。
 思い出はいつも句作の強い味方だ。 (『山の夢』)