大木あまり詩画集「風を聴く木」『3-薄氷』

 薄氷


刺客になれない 主婦は
せいぜい大根を
切るのが関の山。


日常に疲れた
主婦を大根は
切ってくれない。


輪切りの大根には
薄氷のはじらいがある。
それは人間が
日々失ってゆくもの。
そのことを忘れぬため
大根を切らずにはいられない。


夫より友達よりも
長い時間を共有する
包丁よ、今宵も
とびきり上等の大根で
ためし切りをさせてあげよう。
刺客になれない主婦は


大根を切る。
大根を切る。