大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P68

 猫眠亭と名付けてよりの朴落葉


 我が家を猫眠亭(びょうみんてい)と名付けてから三十年が経つ。この家を初めて見に来たのは、五月の雨の降る日だった。買い物もバスで行くような不便な土地で生活できるかしら? その不安を払拭してくれたのが隣の雑木山に咲く朴の花の美しさだった。胸がときめいた。そのあと、もっと驚く光景を目にした。なんと雨が止むと朴の木の上に虹が掛かったのである。永遠に見ていたい情景だった。家を買う理由はこれで十分だった。 (『火のいろに』)