やんごとなき方?

 出張から帰ると、ひとり、女子社員が入社していた。
 有金君にきくと、目白のG院の国文を出て、まだお勤めをしたことがない人のようだった。
「いとやんごとなきお方なのかね?」
「さあ、ぼくにはよくわかりませんけど」(有金君は、美人にしか関心がない)
 ぼくは、新入社員に挨拶すると、専攻はなんだったのか、たずねた。
「ゼミでは、源氏物語をやりました」
 G院の国文は、おかっぱ頭で、よくいえば、いかにも紫式部清少納言ふうの、古風な顔立ちの女性だった(わるくいえば、むっくりふとって気がきかなそうな感じに見えた)。
 ぼくがまた、出張に出て戻ってみると、国文はもう退職していた。
「あれ? いとやんごとなき方面は、どうしたの?」
 ぼくは有金君にきいた。
「立ち仕事は向いていないって。痔が出たから辞めるっていってました」
 ニヤニヤしながら有金君が答えた。
「すごい断り方だな」
「悪い所は、水戸黄門
「なにそれ?」
「えーと、彼女、はじめは慣れないから、胃が痛いっていってたんですよ」
「ふーん。それで?」
「だから、わるいところは、胃と肛門」