指輪 15

 赤坂の芸者さん、K様がキャンセルしたあのルビーの指輪は、9号サイズだった。11号だったものを、左手の薬指のサイズに直したからだ(註、2009-09-27「指輪 7」参照)。
 左手の薬指のサイズが9号の人というのは、そうざらにいない。だから、このルビーに目をとめただれかが、ちょっと試しにはめてみたいとおもっても、小さすぎてはいらなかった。この指輪がずっと売れ残った理由のひとつが、それである。石の質がいいばかりに、とても残念だった。
 とにかく大きなルビーの指輪がほしい、とおっしゃる古井豆奴様にも、一応、ご覧に入れた。
「ほんまに、ちっさいなあ」
 わきからお母様が、嘆息まじりの口調でいった。
「豆奴がほしがってるのとは、えらい違いや」 
 豆奴様が、おもむろに口をひらいた。
「タカシマはん、これは、ルビーの色見本に持ってこられましたのどすか」
(つづく)