年頭の辞
田村隆一先生に「新年の手紙(その一)」という詩がある。
きみに
悪が想像できるなら善なる心の持ち主だ
悪には悪を想像する力がない
悪は巨大な「数」にすぎない
材木座光明寺の除夜の鐘をきいてから
海岸に出てみたまえ すばらしい干潮!
沖にむかってどこまでも歩いて行くのだ そして
ひたすら少数の者たちのために手紙を書くがいい
高校の担任の小嶋先生の年賀状には、いつも「賀青春」という言葉が書かれていた。それは、われわれ悪童に対するエールのようなものだった。「けっして阿房な真似するなよ」というのが、元海軍士官だった小嶋先生の口癖だった。
少年は、やがて青年になって、いやでも中年をむかえて、いつしかあの日の小嶋先生の齢に追いついてしまった。もう十分にじじいである。しかし、新年をむかえると、いまでも「賀青春」という言葉を思い出す。阿房な真似を積み重ねてきたな、とおもう。そして、いくぶん、襟を正すのである。
こちらも元海軍士官だった田村先生、おしえにしたがって、今年も少数の読者のために手紙を書きます。