年末の挨拶

 井伏鱒二に「泉」と題する詩がある。
 たった二行の短い詩だが、「岡の麓に泉がある。」と前書がついている。

   
   その泉の深さは極まるが
   湧き出る水は極まり知れぬ

 
 暦のおかげで、今年という一年は大晦日でおしまいだが、時間は湧き出る水のようなもので、ずっとつづくだろう。
 宇宙が誕生して五十億年とも百億年ともいうが、ぼくらはいま、その流れる時間の先頭にいる。
 なぜ先頭にいるのがわかるかというと、未来をまだ知らないからである。そして、過去を知っているからである(後ろ向きに電車の先頭車両に乗っているところを想い浮かべてほしい。電車が進むにしたがって、窓の風景が現れてはうしろに去っていく。風景は、とつぜん見えて、見えたとたんに過去に去っていくのである)。
「ギンザプラスワン」は、すべて過去の産物である。しかも、ぼくというひとりの人間の、たかだか二十年間の記憶の集積から拾いだしてくるスクラップでしかない。
 とはいうものの、水が湧き出てくるあいだは、スクラップ・ブックを書き続けようとおもう。来年もご愛読願う次第です。