彫刻 11

カキツバタですよ」
 写真に写っているものがなんだかわからずにじっと眺めていると、I先生はそういった。
 木材の余りでこんなものを作ってみました、といってポケットから取り出した写真を見せられたときだ。
 そういわれると、わけのわからない形は、花弁がひらいたカキツバタの花の部分に見えてきた。
「どれくらいの大きさですか?」
「30センチくらいでしょうか。試しに作ったんですよ。それを見せたら、モーブのママがどうしてもほしいといって放さないんです」
 モーブというのは、I先生がアトリエを構えた魚崎北町にあるレストランのことだ。独身のI先生は、割と頻繁に食事に通っていたらしい。
「だから、20万円だよっていったんです。あきらめるかとおもって」
「あきらめたんですか、モーブさんは」
「いや。だめでした。それどころか、彼女の友人が同じものを作ってくれというので、いくつか作るハメになりました」
「いいお小遣い稼ぎになりますね」
「ところが、同じものを作っていると、どんどん上手くなってゆくんですよ。それが面白くなくて、もう作るのがいやになりました。やはり、最初のやつが、いちばんいいです」