彫刻 10

 4階倉庫にブロンズの固まりが放置されていた。放置といっては間違いで、箱に入れてきちんと風呂敷で包んであるのだが、どう見ても置きっぱなしだった。これは、蜜野氏(2006-09-17「ある日の昼飯」〜2006-09-24「続・田舎の道」参照)の所有物だった。
 それは、高さ30センチほどの彫像で、箱に「母子像」と書かれていた。蜜野氏が花器沼先生(2006-08-13「花器沼先生」〜2006-09-03「続々々 花器沼先生」参照)に誘われて購入した高名な物故作家(芸術院会員・文化勲章受賞)の作品だった。
「花器沼先生は、事務所に飾っておられるそうですけど、蜜野様はどうしてお宅に飾らないんですか?」
「ぼくは、花器沼さんに声をかけられたから、ほしくもないのに買ったんです。おつき合いだから、しかたがない」
文化勲章を受賞した作家なら、ずいぶん価値があるのでしょうね」
「あんなのは、型があってこしらえるんですからね。鯛焼きといっしょで、いくらでもおんなじものが造れるんですよ」