彫刻 18

 I先生の持病は、通風だった。ご本人は、一病息災、と気取っていたが、なかなかそんな甘いものではなかったようだ。
「たくさん仕事をすると、しこたまお金がはいるでしょ。そうすると、わたしは肉が好物だから、肉ばかり食べますよね。お酒はもちろん大好きだから、お酒もガボガボやります。
 しばらくすると、体重がふえるんです。なかなか恰幅がよくなってきたな、とおもって気をよくしていると、やがて関節が腫れるんです。動かせないくらい、これが痛い。そよと風が吹いても激痛が走るくらい痛い。歩くどころか、トイレに行くのも不自由します。
 そうして、食事もままならないで転げ回っていると、何カ月かして、ある日、ピタッと痛みが止まります。もちろん、すっかり痩せ細ってしまいます。
 その間、仕事ができないから、どこからもお金がはいってきません。すっかり貧乏になっています。仕方がないから、そろりそろり仕事をはじめます。
 仕事をすれば、また、お金が舞いこんできて、食べるものも、徐々にぜいたくになって、気づいたら山ほど肉を食べて、お酒を飲んでいます。すると、いつしか太って、あの恐怖の激痛が顔を出すのです。
 わたし、おもうに、通風は、わたしにとって、太り過ぎを防止するリハビリのようなものなんですね」