銀座百点 号外30

 句会のお仲間に鶉さんという人がいる。IT関係の仕事をしている女性で、最近、「クリエーターの渡世術/20組が語るやりたいの叶え方」(株式会社ワークスコーポレーション/2010年11月25日初版第1刷発行)という本の「会社を経営する」という章で取り上げられた。なんてったって、社長だからね。
 ご本人は、まだ若くて、チャーミングで、才気煥発、ユーモアとウイットと貯蓄に富むが、心ならずも独身を通している。
 さて、年齢のひらきと俳句の感性はどんな按配か。まず、いて丁さんの選による鶉さんの句を見てみよう。


    猫の恋ひとりもだえる春の夜
    春の雷轟き見上げ午後三時
    原爆忌真白き犬へ白き飯
    一年はあっという間の盆の駅
    夏の宿畳の上の太宰かな
    好色の男歩いて白絣
    夕焼けに消えし機体を見し夏か
    小名木川綿絽の女角曲がり
    海の家跡形もなく白露かな
    金色のしっぽ残して青蜥蜴
    秋袷過ぐる何かは引き出しに
    夕立やマルガリータの白き塩
    またひとつ灯の消えゆくや山の秋
    団栗の無邪気さも苦し三十路かな
    銀狐羽織る女の目の険し
    苦々し絆が残り青木の実
    見ぬ人の五十回忌や村時雨
    青き目の人形取り出し開戦日
    何もかもそぎ落としてや年の暮
    南天も野良に植えれば雀の巣
    杉の葉の音も嬉しや初竈
    豆皿に白魚のせて人待てり
    芽柳や古川橋の泥の河
    南風よヒグマの恋ようまくいけ
    白色の猫のおなかとさくらん
    真夏日京葉線のまっすぐに
    マウンドにロージンバッグ終戦
    母と子の彼我の思いやヒメアザミ
    民さんが桔梗であれば別の恋
    入海や夜の間の浮寝鳥
    北へ北へ銃火ぴかりと冬の鳥
    初時雨革命日記読む人よ
    滝凍てて赤い帽子の直登す 
    セールスの女足組み寒の入り
    なにごともなき日の白き足袋の裏
    噛み合わぬ会話柊挿しにけり
    菜の花の終の棲家を囲いおり
    苗植へて昭和の時代を振り返る
    春の蠅漫画雑誌の縁なぞる
    スタンドにぽつり清げな白足袋や
    フリーランスという生き方や夏至過ぎる
    秋暑しラバウル戦記に栞かな
    二十歳には二十歳の夏よ放浪記