銀座百点 号外31

 さて、柚さん選である。
 柚さんは、鶉さんのことを「鶉ちゃん」と呼ぶ。そういえば、わさびさんも「鶉ちゃん」と呼んでいる。男連中は「鶉さん」である。
 IT関連事業という時代の最先端の仕事につく反面、鶉さんには別の顔がある。ご実家の田植えと稲刈りの手伝いがそれである。


    球音がひびく浜辺を父と行く
    さよならを聞かせるように散る桜
    母の日にしまい湯つかう古希の母
    山笑うひとつひとつの木のかたち
    好色の男歩いて白絣
    サイレンの夏空見上げ白い犬
    一年はあっという間の盆の駅
    夏の宿畳の上に太宰かな
    捨て猫の鳴き声途ぎれ夜の月
    他所の田に人いなくなり秋の暮れ
    またひとつ灯の消えゆくや山の秋
    銀狐羽織る女の目の険し
    苦々し絆が残り青木の実
    トンネルの間に間に光る冬の海
    何もかもそぎ落としてや年の暮
    歌合戦終わる夜更けの静けさや
    初霞久里浜沖のみるく色
    放たれし犬追う子らに春の風
    ぬる燗のぬくさ確かめ春の夜
    芽柳や古川橋の泥の河
    夜半の春灯りの紐が遠くある
    校門にそっと立ってる青い春
    春の空芝生と風と缶ビール
    青空をただ目指してや黄水仙
    北窓を開き半年振りの庭
    馬酔木咲く小道抜ければ母の家
    書を抱き夏至の日海へ旅に出る
    夕立や田舎駅舎の時刻表
    水道のなき家に育ち冷素麺
    障子貼り下駄履き糊を買いに行く
    真夏日京葉線のまっすぐに
    マウンドにロージンバッグ終戦
    秋天や同じ高さに雲を見る
    今年藁裸足で遊ぶ子供かな
    冬座敷足袋と懐紙と花鋏
    銀杏散る吹き上げられてまた空へ
    厚氷今朝閉店の知らせあり
    噛み合わぬ会話柊挿しにけり
    赤ん坊を褒める八百屋の手に苺
    菜の花の終の棲家を囲いおり
    春の蠅漫画雑誌の縁なぞる
    納品の終わる夜明けの霜の鼻
    冬晴れに心強けり LADY GAGA