綴じ込みページ 猫-32

 盛夏を迎えて、ようやくミーヤの抜け毛がおさまってきた。
 朝晩、ゴムのくしでミーヤの抜け毛をすき取るのが日課になっている。ミーヤがうちにきてから、ほとんど毎日、欠かさない。このゴムのくしは、インターネットで購入した。猫がよろこんでマッサージさせるのよ、と使った人のコメントが載っていた。ゴムだからマッサージにも効果があるらしかった。
 このくしは、石けん箱くらいの大きさで、表側はてんとう虫になっている。赤い羽根に黒の斑点が六つ。裏側は、2センチほどの長さのゴムの歯が、ブラシのように一面にはえている。ゴムだから、多少力がはいっても痛くないとおもうが、きつくするといやがる。
 ミーヤに、にゃにゃにゃんしようか、といっててんとう虫を見せると、待ってました、ととんでくるときもあるし、ああ、厄介だな、というふうに、不承不承やってくるときもある。にゃにゃにゃん、というのは、ミッキーマウス・マーチの曲にあわせて、ぼくがうたうミーヤの歌のことである。ゴムのてんとう虫を持って、この歌をぼくがうたうと、ミーヤは、ほら、はじまった、といった感じでぼくを見つめる。


 にゃにゃにゃん、にゃにゃにゃん、にゃにゃにゃにゃにゃん、にゃにゃにゃん、にゃにゃにゃん、にゃにゃにゃにゃにゃん、ミーヤ、にゃにゃにゃにゃん、ミーヤ、にゃにゃにゃにゃん、ミーヤはかわいいな、にゃんにゃんにゃん、ミーヤ、ミーヤ、にゃにゃにゃにゃにゃん、ミーヤはかわいいにゃんこです(くりかえし)


 2年半、毎日、朝晩きかされれば、猫のほうだって、条件反射でいやでもからだが動いてしまうのだろう。お尻をむけて、しっぽを高くあげて、ゴムのくしでからだをなでられるのを待つ姿勢をとる。そして、なでられはじめると、すぐに横向きに倒れてしまう。たいてい、左側を上にする。右側のぬけ毛も取りたいから、からだをひっくり返す。もういいのに、という表情でひっくり返り、しばらく右側をなでさせてから、くしを持つ手をがぶりと噛む。噛み付く、というのではなく、甘噛みのような力の加減をしているのがわかる。これは、もういいってば、といっているのである。


 これを書きはじめたら、そばにきてなにかみゃあみゃあいっていたが、訴えても相手にされないとわかると、すぐ脇のプリンターの上でふて寝しはじめた。背中を向けて。