綴じ込みページ 猫-223

 今年の夏は暑かった。そのせいか、通勤の近道に重宝している築地本願寺境内にも、異変が起こっている。


 その一。去年、あんなにうるさいくらい花をつけた夾竹桃に、ほとんど花が咲かなかった。そんなことでは、句作の足しにならないではないか。
 

 その二。裏門近くの花壇の向日葵はまるきり伸びなかった。おかげで、今夏は向日葵の句がまったくない。
 

 その三。本堂脇の大瓶の蓮池では、花が二輪しか開かなかった。しかも、晩夏、蓮の葉は日に焦げて、周囲が茶色く枯れている。蓮は夏の季語だけれど、花が咲かない以上は、秋の季語「蓮の実」も期待できまい。


 とまあ、いかにも写生をモットーとしているかような口ぶりで慨嘆してみせていますが、本当のところはぜんぜん実景なんか見ていないのです、これが。酢豆腐はひと口にかぎる。風景は、ちらっとひと目にかぎる。