綴じ込みページ 猫-225

 ミーヤの爪が伸びて痛いので、そっとポケットから爪切りを取り出した。いつでも隙を突いて爪が切れるように、パジャマ代わりの半ズボンのポケットに、目薬の容器といっしょに爪切りを潜ませている。


 ミーヤは、甘えたくなると、そっとそばにきて、あらぬ方向を見るフリをしてすわっている。こちらが気がつくと、はじめて自分も気がついたというふうな顔をして、ひとつあくびをしてから頭をスリスリしてくる。そして、いつも、あぐらのあいだに無理やり割り込んできて、後ろ向きにすわるのである。


 後ろ向きにすわったミーヤが手を伸ばすと、ちょうどぼくのくるぶしのあたりに爪があたる。背中や頭をなでてやると、気持よくて、だんだんその爪に力が入りだす。すると、靴下をつらぬいて、爪が皮膚に食い込むようになる。錐の先を押し当てられているような按配である。修行僧のようにじっと我慢するが、修行僧ではないのでやがて限界がくる。やんわりとミーヤの手をくるぶしからはずした。昨夜は、爪を切ろう、とやおら思い立った。


 で、ミーヤの体を足で挟み込んで、爪切りを当てようとしたら猛烈に暴れだした。もう爪を切るどころではない。放すまいとしっかり握ったパパの手を、ミーヤは無理やりすり抜けた。すり抜けついでに伸びた爪がぼくの親指を切り裂いた。血の玉がみるみる盛り上がって、あわてて救急箱からバンドエイドを取り出した。水道で血を洗い流してガーゼでふくと、さっそくバンドエイドを巻いたが、まだズキズキする。


 猫の爪を切るのは、ラクダが針の穴を通るよりもむずかしい。