号外 たのしい編集-11

「あとがきにかえて」でおしまいだとおもっていたら、目次の最後に「編集後記」が残っていた。共著者の大西美穂という編集者が書いている。


編集後記
 わたしが出版業界に転職したのは二十五歳のころだったから、一般的には遅いほうかもしれない。それまでは、もっぱら本を読む側だったのが、ある日突然、つくる側になってしまった。そもそも異業種からきたわたしは「ゲラ」の意味さえわからないから、会話にもついていけない。なにをしたらよいのか、さっぱり要領を得なかったことをいまでも覚えている。
 その当時、著者の和田文夫は、英治出版の顧問として週に一度、会社に顔を見せ、「和田勉(べん)」という会を開いていた。それは大学のゼミのような形式で、若手の編集者を集めて編集に関するイロハを共有する勉強会だった。
(中略)


 ほどなく、単行本を担当させてもらえるようになったが、(中略)いちいちがハプニングの連続だった。(中略)そんなときには、よく、和田に電話をかけていた。
「こういう場合は、どう対処したらいいのでしょう?」
「うーん」
 電話口の声がふいにとぎれ、しばらくすると
「その場合は……こうしたらどうかな」
 ぽつりぽつりと返ってくる。
 深夜だろうが、休日だろうが、いつも彼なりの答えを出してくれた。もちろん、それが正解というわけではないだろうが、彼の三十五年という編集人生の記憶の断片は、切り抜ける知恵のようなものを含み持っている。(中略)その多くは、問題に対する細かい技術指導というよりも、「どんな本をつくりたいのか」を改めて自分に問い直し、「そのためにはどうするのがベストか」を考えさせる示唆だったのかもしれない。
(つづく)