綴じ込みページ 猫-241

 ミーヤと暮らすようになって、猫は、いったい、どこを触られるといやがるのか、ずいぶん煩悶した。いやがることをして、嫌われたくないからだ。
 もと同僚の有金君は、スコティッシュフォールドという品種の猫を飼っているが、「性格は優しく温和、甘えん坊で飼い主と遊んだりそばにいることが好き」という性格や特徴の猫にもかかわらず、ぜーんぜん触らせてくれず、そばにも寄ってこない、といった。


「え。じゃあ、撫でたりすることないの」
「ない」
 と、有金君は電話のむこうで答えた。「だって、触ろうとすると逃げちゃうんだもん」
「頭とか、顎の下とか、首のまわりなんか、掻いてあげるとよろこばない?」
「だからー、まったく触らせてくれないんだってば」
「ふーん。それって、つまらなくない?」
「べつに。ずーっとそうだから」
「奥さんには?」
「触らせなかったとおもうよ」
「それでも、同じ部屋にいて、ごはんあげて、お水あげて、いっしょに暮らしているわけだ」
「そう」


 有金君の奥様が発病したとき、術後、奥様は会社に長期休暇をとって自宅で療養することにした。当然、ひとりで家にいる時間が長くなった。そのため、慰めになればとおもって猫を飼いはじめた。くだんのスコティッシュフォールドである。ペットショップで見た途端、決めていた、というくらいその猫はかわいかった。
(つづく)