大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P30

 寒卵は尼の静けさ岬暮る


 俳句の仲間と伊豆に行ったときの作。一日、冬の海を吟行し、いざ帰ろうとしたとき岩屋を発見。そこには小さな祠があり、コップ一杯のお酒と卵が一つ供えてあった。あたりは暮れかかっていたが薄闇の中のほの白い卵は、尼様が静かに座っているような厳かな気品があった。海と卵。大きなものと小さなものとの対比。だが、この場合、海だと飛躍しすぎて伝達性がないので、「岬暮る」にした。 (『山の夢』)