大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P128

 青空の下に檻ある辛夷かな


 横浜市西区野毛山動物園での作。この日のお目当ては黒豹だった。檻の前に立つと黒豹は牙をむいてしきりに威嚇する。敏捷な身のこなし、不敵な面構えは野生そのもの。ときどきちらっと見せる桃色の舌がなんともかわいかった。春を告げる花、白い辛夷と黒豹の取り合わせで詠もうと思った。が、もっと広やかに詠みたくなって辛夷の咲く動物園に焦点をしぼった。すべての檻の中の動物たちを解放することを夢想しながら……。 (『火球』)