続々・花器沼先生

花器沼先生が退院してからしばらくして、北海道から荷物が届いた。大きな段ボール箱が2個、かさねてしばってあった。送り主を見ると、花器沼先生だった。
 ぼくは、お見舞いに病院に行く前に、花器沼先生が入院されたことを釜本次長に報告していた。
「お見舞いはいらない、とおっしゃってますが、どんなもんでしょう」
「そうだね、先生は吉良上野介のようなところもあるし、なにもしないのも問題かも」
「それとぼくは、うちのカミさんが入院したとき、先生からお見舞い、いただいてるんですよね」 
「お返ししたんでしょ?」
「ええ、快気祝い、ちゃんとすんでます。でも、お菓子も果物もいらないっていわれましたが、なんだか手ぶらってわけには」
「いかないだろうな。なにせキラコウズケだから、ベッドの上で、だれがなにをもってきたとか、にやにやしながら手帖につけてるような気がする」
「でしょ? 」
「それに、店長のことでもお世話になったし、ぼくも知らん顔できないな」(鎌崎店長が病気になって、病院を紹介してもらったことがあった)
  そこで、嶋屋さん(銀座4丁目にある文房具店)でお見舞い用ののし袋を買ってきて、次長は筆ペンで、ぼくはサインペンで、自分の名前を書いた。
「そんなこと、しなくってもよかったんですよ。そう、そうですか、どうもありがとう。きみたちの気持ね、うれしいよー。釜本さんにもよろしくいってください。ところで、会社からはなんにもないの? あるわけねえか、しみったれが。社長によくいっとけよ、おたく最近、評判わるいよー」
 花器沼先生は、しりあがりの茨城弁でそういうと、まんざらでもなさそうな顔をした。
 段ボール箱をあけると、たまねぎとじゃがいもが出てきた。いままで見たなかで、最高のたまねぎとじゃがいもだった。お見舞いの金額をはるかに越えているようにおもえた(顧客のなかに花器沼先生が経理を見ている会社の社長さんがいて、夕張メロンが送られてきた、とおしえてくれた。まあ、包んだ額がちがうからね)。
 つぎに花器沼先生がみえたとき、さっそく御礼をいった。
「先生、あんなにたくさん、ありがとうございました」
 いいのいいの、と花器沼先生は鷹揚に手で制した。
「はじめて見ました、あんな立派な夕張メロン
 先生は、ずるっと椅子から落ちた。え、失敗した、彼んとこに、まちがってメロン送っちゃったかな、ととっさにしりあがりの茨城弁で考えているのが、手に取るようにわかった。