小話のような話・続

ガラス張りの屋根の家は、秋に出来上がったのでした。秋から冬にかけて、東京も夜はよく晴れて、都心でもきれいな星が見られました。
 ところが、季節が移って、春から夏になると、ガラスの屋根はさながら温室のようでした。暑くていられないくらいです。直射日光のことを、建築家は考えなかったようです。
 文句をつけると、天井にブラインドがつきました。窓におろすブラインドを、横向きに取り付けました。直射日光はさけられましたが、暑いことにかわりありません。炎天下に日傘をさした程度のちがいしかなかったからです。
 それが原因かどうかわかりませんが、女将さんはしばらくしてなくなりました。葬儀は、向かいの青山斎場でとりおこなわれました。
 ごひいきだった政治家のひとりが挨拶に立ちました。さきほど、女将さんがこの近くに引っ越して来ていたことを、知ったばかりです。
 政治家は、えー、といって、口をひらきました。
「女将は、なんといっても、先見の明があった」