H氏の話 2

「あ、ウンコが落ちてる!」
 と、見つけていったのは、荻馬場さんだった。
「ゲッ!」
 と、ぼくはいった。「どうしよう?」
「どうしようか?」
 と、荻馬場さんも、じっとウンコをみつめながら、いった。「きっと、手術した肛門がゆるんでいるのね。やーね、ズボンのなかをころげ落ちたのかしら。きっと、そうよね。うわー、やだ! 掃除するにしても、やわらかくて、絨毯にこびりついてそうよ」
 そのとき、水道で流してしまえばよかったのだが、そちらに発想がむかわなかった(40センチ角の四角い絨毯を、まんべんなく敷き詰めていたのだから、そこだけぽこっとはずせばよかったのだ)。
 なんとしても取り除かなくてはならない、とおもったが、といって、ティッシューで拭き取るなんてごめんだった(たいていの人は、いやでしょ)。園芸用の小さいシャベルでもあれば、こそげ落とせるのに、と考えたが、ないものを考えても仕方がない。
 いや、待てよ、これが乾いてしまえば、あんがい簡単に、ぽろっと取れるのではあるまいか。
「えーと、さあ」
 と、ぼくはいった。「これって、乾いたら、簡単に取れるんじゃない」
 荻馬場さんも、じっとウンコをみつめたまま、自分もいますぐ始末をするのはいやらしく、うん、とうなずいた。
「じゃあね、ここに、危険ウンコありますって書いた紙、置いておいて、あしたまでには乾いてるだろうから、次長にそういって、始末してもらってよ。ぼく、遅番だから」
「うん、わかった」
 H氏は次長の担当だから、次長もすぐに納得するはずだった。
 ところが、これが、あんがい、大事に発展して、荻馬場さんは次長と喧嘩して、退職に至るのである。
(つづく)