つぶやき

 早川書房から刊行された「世界SF全集」の第28巻は、1冊まるごと星新一で、タイトルは「作品 100」(1969年7月31日初版発行)。どれも選りすぐりの100篇のショート・ショートが収録されています。
 その解説「ホシ氏の秘密」(石川喬司)に「ホシ氏の好きな小話から」として、こんなプロローグが掲げてあります。
「精神病院の浴室で患者が風呂の中に釣り糸を垂れ、じっと見ている。医者がからかい半分に、『どう、釣れますか?』と聞くと、患者『釣れるわけないでしょ。ここは風呂場ですよ』」
 おなじような小話もいくつかあって、ぼくは別のバージョンのでこれを知りました。
「針も糸もついていない釣り竿を、しゃがんだ高校生が、水のはいったバケツの上にかざしている。通りすがりの同級生が、ニヤニヤしながら『なんか釣れるんか?』ときく。しゃがんでいたほうは、とたんにうれしそうに『おまえで何人目や』」
「ギンザプラスワン」に連載している話が、とても荒唐無稽で、現実にはありえそうもないことばかりで、作者が適当に面白く作っているのではあるまいか、とお考えの向きがあるかもしれません。しかし、そんなことはありません。
 そりゃあ、景山民夫さんが「けっして嘘は書いてないが、誇張してない所は一か所もない」といったように、多少の誇張はあるけれど、けっして嘘は書いてません。だいいち、登場する社員のだれかだって、たまには眼をとおしてくれているんですよ。なかったことは、書けるわけないじゃありませんか。
 ぼくの釣り竿には、ちゃんと糸と針がぶらさがっています。しかも、お魚がいるとおぼしきあたりに、きちんと釣り糸を垂れることにしています。かならず餌がついているとはかぎりませんけど。
(2年前にけんかして、ずっと絶交状態になっていた友人の甘木に、よく考えたらそのとき腹を立てたぼくのほうがわるかったような気が急にしだして、つい最近、電話で謝りました。それで「ギンザプラスワン」のことを話したところ、どうやら読んでくれたようなのですが、普通の生活であんなことばかりあるかよ、といぶかしげにいってきました。それって、みんながおもってることなのかな。あらずもがなの1章をもうけて、嘘なんかじゃないもーん、と申しあげるしだいです)