市川さんの話 11

 市川さんは、学生のとき、ボクシングをやりました。
 市川さんの年代で、ボクシング部に入るというのは、なんとなくイカレポンチを想像させます。市川さんも、それを否定しません。ちょうど、石原慎太郎とほぼ同年輩で、もちろん「太陽の季節」が出る前のことです。
 市川さんは、スパーリングで相手と打ち合って、鼻血を出しました。そのときから鼻を痛めて、鼻に当たるとすぐに鼻血が出るようになりました。
「それでボクシングやめたんですがね。いまになると、なんでボクシングなんかはじめたんだか、よくおぼえてないんです。いまでもちょっとしたことで鼻血出ますよ。ほんとに、やらなきゃよかったっておもいますよ」
 しかし、そういう市川さんの眼が、ときどき、なにかの拍子に、試合中のボクサーの眼になることがあります。
(つづく)